落語の理論でゲームを作る!? ディライトワークス東山朝日氏が「おもしろさの仕組み化」を伝授



2019年5月17日(金)にディライトワークス「肉会(MEAT MEETUP)Vol.12 第5制作部キャリア相談会 ~“おもしろい”をつくるコツ教えます~」が開催されました。この記事ではゲーム開発者・東山朝日氏による講演の内容をレポートします。

登壇者紹介


ディライトワークス株式会社
第5制作部 ジェネラルマネージャー
東山朝日(ひがしやま あさひ) 氏

【東山朝日氏のプロフィール】

1993年、株式会社ナムコ(現バンダイナムコエンターテインメント)に企画職として入社、『エースコンバット』(プランナー)、『エースコンバット2』(ディレクター)、『機動戦士ガンダム戦記』(製作プロデューサー)などを担当。2012年、株式会社タイトーに転職。『グルーヴコースターアーケード』、『電車でGO!!』などのコンセプト開発を担当。2017年、ディライトワークス株式会社に転職。ゲーム開発に従事。

講演情報より引用。

自分の体験をゲーム制作のヒントにすべし


自己紹介を終えた東山氏は、まず参加者とのアイスブレイクを兼ねて「最近おもしろかった体験」を募りました。

最初に挙手した参加者は「某作品の展覧会のために東京から広島へ日帰り旅行した」というエピソードを紹介。その作品は「実在の新幹線が巨大ロボットに変形する」というもので、メインターゲットである児童層に大流行中。近年ではめずらしくTVアニメの放送期間延長を達成したほどのヒット作です。

エピソードを聞いた東山氏は即座に作品のヒット要因を考察開始。完全な即興であるにもかかわらず、まるであらかじめ準備していたかのように、いくつもの“おもしろさ”を淀みなく挙げていきました。

【某作品の人気に対する東山氏の考察まとめ】

  • 児童にとって公共機関の乗り物や重機は、自家用車の次になじみがある乗り物で、元来人気が高い。
  • 自分の力を必要とせずに動く列車や自動車への搭乗体験は、児童にとってエキゾチックなことであるはず。
  • 児童と年齢が近いキャラクターが新幹線を操縦し、さらにそれが巨大ロボットへ変形して戦うという構造は、現実と地続きのものがファンタジーへの橋渡しをしているからドキドキするのではないか。

続いて別の参加者が「自分が成長し、食事をおごる立場になった」というエピソードを披露。しかもそれは東京・赤坂にある店の高級肉料理だったといいます。

先に紹介されたものとは趣きが異なるエピソードですが、東山氏はまたもや即座におもしろさの理由を考察開始。異なる立場に立ったことに対する感慨や、自分が価値を認めているものを他人に知ってもらったうれしさが、支払った大きなコストを上回っている可能性を挙げ、人間心理には複雑な機微があることを語りました。


アイスブレイクの総括として東山氏は、さまざまな体験を「おもしろかった」という結果だけで完結させず、おもしろかった理由・仕組みを分析することが、ゲームデザインのヒントになることを語りました。

「おもしろさの仕組み」をどう使ったか

続いて、東山氏自身にとっての「おもしろかった体験」を抽象化してゲームの仕組みに利用した事例が5つ紹介されました。

■某映画における「追われるシーン」の緊張感

最初に紹介された事例は、1970年代に公開された某SF映画シリーズ第1作のチェイスシーンのおもしろさを参考にしたもの。

逃げる主人公の戦闘機を敵役が追うシーンについて、東山氏は「逃げる主人公→追う敵役→逃げる主人公→追う敵役→心配するヒロイン」というカット構成(カットバック演出)が観客をハラハラさせる要因だと分析。

カットバック演出から「おもしろさの仕組み」を抽出した東山氏は、戦闘機ゲームを例に挙げて以下のようなゲームデザインをおこないました。


【シチュエーション】
軍事機密を搭載した味方輸送機が砂漠で墜落。敵は機密奪取のために、味方は救出のために、それぞれ地上部隊を派遣し、 敵の戦闘機が味方を狙っている。プレイヤーは戦闘機で敵を攻撃する。

【勝利条件】

  • 先に自軍が墜落地点へ到着する。

【敗北条件】

  • 先に敵軍が墜落地点へ到着する
  • 自軍地上部隊が撃破される
  • プレイヤー機が撃破される

マップ前方から迫り来る敵戦車の撃破と、マップ中央に集まる自軍の保護をプレイヤーに同時におこなわせ、カットバックのような意識の切り替えを誘発。独特のスリルと緊迫感が生まれる構造になっています。

東山氏はこのゲームデザインについて某映画から着想を得たと述べつつも、おもしろさのエッセンスだけを抽出・抽象化して自分のものにしているからこそ誰にも看破されないと解説しました。

■排気量によるバイクの運転感覚の違い

東山氏は排気量が異なる複数のバイクに乗り「スリル」「制御する楽しみ」という2種類のおもしろさを体験。そのおもしろさを抽出して「戦闘機で狭く長い峡谷を進むミッション」を2種類発案しました。


1つ目のミッションではマップを比較的単純に設計。スピードを出しやすくすることで、「狭所を高速で飛び抜けさせ、ひとつ間違えると即ミス」というスリルを演出。


そしてもう1つのミッションでは、プレイヤー機のパワーを上げつつ、マップを比較的複雑に設計することで、「ハイパワーな機体を制御する」という別の楽しみを実現しました。

なお、この事例には「狭くて長い峡谷を進む」という特殊なシステムを複数のミッションに流用することで、制作コストを抑えることもできたそうです。

■某アニメ映画における「戦闘と歌」

1980年代に公開された某アニメーション映画で、ヒロインの歌のサビに合わせて敵と味方がミサイルを一斉発射するシーンに感銘を受けた東山氏。

高揚の理由を「歌と戦争のクライマックスが同期していること」と考え、自作にも「感情と演出の同期」のための仕組みを採用しました。


【ミッション概要】
攻撃目標は敵の地熱プラント。ミッション開始時は突入口(放熱口)が閉鎖されており、攻撃できない。90秒間だけ、突入口(放熱口)が解放される。

【ミッション状況に合わせた音楽演出】

ゲーム内の状況 流れる音楽
突入口の解放前 陰鬱な曲調の楽曲
突入口の解放後 勇壮なマーチ

ちなみに、当該作品が制作された当時は1つのミッションに音楽を複数用意する仕様が贅沢なものだったため、東山氏は理性的に仕様書を作ってスタッフを説得したそうです。

■落語の理論「緊張と緩和」

父の影響で落語をよく聞くという東山氏。落語家・桂枝雀氏が提唱した「緊張と緩和」の理論を用いたゲームデザイン事例も紹介されました。


【ミッション概要】

  • 場所は氷原。攻撃目標は山の向こうにある敵駐屯基地。
  • プレイヤー機の高度が一定以上になると敵レーダーに捕捉されるため、飛行高度が常に制約される。
  • 敵レーダーに捕捉されないまま山越えに成功すれば、敵駐屯基地を存分に蹂躙できる。

このミッションでこだわった要素として、東山氏は「氷原」と「山」というロケーションを挙げました。

【氷原の機能】

  • 一面が真っ白な台地である氷原は、プレイヤーの位置認識や高度感覚を麻痺させ、「緊張と緩和」を強化することができる。

【山の機能】

  • ゴールとされる攻撃目標までの視界を遮り、「緊張と緩和」を強化する。
  • ゴールまでの難度を高めるだけならミサイルランチャーのような障害物でも代用できるが、視界を遮る演出のためには山を選ぶ必要があった。

なお、このミッションでも先の例と同様に、山を越えた瞬間にBGMが切り替わる演出を採用したとのことです。

■任侠もの映画における終盤の大暴れ

最後の事例は、東山氏が子供のころに父の影響でよく観ていたという任侠映画をヒントとしたもの。

「主人公の男が悪役の仕打ちに耐え続けるが、最後の最後に堪忍袋の尾が切れて殴り込みをする」という定番のパターンを観ると毎回盛り上がる理由について東山氏は、「ストレスと開放」の構造があると分析しました。

東山氏はアニメーション原作のゲームで「ストレスと開放」の構造を応用した例として、以下のようなゲームデザインを挙げました。


【ゲームデザイン概要】

  • 当該ミッションに入る前、原作の展開にしたがって機動性が低い機体の操縦を強いられる(ストレスが誘発させられる)。
  • 当該ミッションでは、久々に機動性が高い機体を操縦できる(ストレスの開放・高揚が誘発させられる)。
  • 高揚・油断したプレイヤーが高性能の機体で強引に進もうとすると、敵陣に多数配置された砲台から総攻撃を受ける(油断から危機体験に誘導される)。

ちなみに私もかつてこの作品をプレイしたのですが、この仕組みに完全に誘導され、見事に苦戦した覚えがあります。同じ原作からのゲーム化作品ではなかなか再現されないマイナーなシチュエーションが採用されていたこともあり、作品全体を通して原作の状況や雰囲気を存分に体験できました。いまだに印象的な作品です。

「おもしろい」を作る3つのステップ


講演の総括として、東山氏は「おもしろい」をつくるための3つのステップを改めて解説しました。

1.感動の収集


「おっ、おもしろいじゃん」程度のものから号泣するほどのものまで、さまざまな感動体験を収集することを推奨しました。

2.「なぜ?」の習慣化


東山氏は、考察の対象は楽しかったことに限らないと補足説明。例えば悲しかったことなら泣けるゲームの、恐ろしかったことならホラーゲームの参考になるとのことです。

3.抽象化


今回の講義における「抽象化」は「おもしろかった理由から、特徴的な要素のみを重点的に抜き出し、仕組み化すること」と定義されています。

東山氏は、抽象化こそが3つのステップにおいてもっとも大切なことであると強調しました。

▼ちなみに現在の東山氏は記録にノートとスマートフォンを併用しており、ノートはモレスキンのものを選んでいるとのことでした。


質疑応答

今回の講演は35分間の予定でしたが、参加者とのやり取りも盛り上がり、最終的に約50分まで延長。さらに公演後は質疑応答がおこなわれ、非常に濃厚な催しとなりました。

以下、会場でおこなわれた質疑応答の様子をまとめてお送りします。

Q.作りたいものに必要な「おもしろい要素」を選別するテクニックはありますか?

リファレンスとして似ているほかの例を探すことと東山氏は回答しました。例えば講演冒頭のアイスブレイクで話題になった“某作品”について考えるなら、同様に実在車両が人型ロボットに変形する某シリーズ(国外でも人気で実写映画シリーズも大ヒット)がリファレンスとなるとのことでした。

Q.「おもしろさの抽象化をテクニックとして習得できた」と感じられるまで、どのくらいの期間がかかりましたか?

そもそも東山氏が理論追究を始めたきっかけは、キャリア2年目に発売された担当作品のヒット要因がわからなかったことだそうです。

当時の東山氏は、人の心を動かす理論がなければゲーム開発者として生き残れないと判断。

その後に抽象化の理論だけで制作した作品がヒットして自信を得られた時点までを一区切りとするなら、少なくとも約2年間。さらにあとの担当作品まで範囲に含めると、所要期間は約1万時間にわたるとのことでした。

東山氏は、プロ野球選手や作家も1万時間の訓練で“何か”になれるとされていることを例示し、1万時間の積み重ねの有効性も説いていました。

Q.さまざまなものをインプットする際、何をフックにして対象への興味を持っていますか?

東山氏は、インプットはまず量が重要であるとし、1年あたりの目標を決めておこなっていることを紹介しました。

かつては映画約100作と書籍50万円ぶんのインプットを毎年おこなっていたとのことです。ただし新人時代に同僚に話したところ、業界では普通の量だと軽く流されたというエピソードも披露していました。

ちなみに、講演後に直接うかがったお話によると、現在は映画のインプット量が年間約80作程度になっているかわりに、劇場で鑑賞して客層を観察・分析することに注力しているそうです(書籍は現在も毎年50万円ぶん購入しているとのこと)。

Q.過去の仕事における最たる失敗は何ですか?

東山氏は「世に出ないこと」こそが最大の失敗であると説明。過去には大金を費やした企画が没になったこともあるものの、ヒット作で取り返せたそうです。

Q.プロデューサーとしてもっとも大事にしていることは何ですか?

この質問には「お客様に満足していただける品質を確保した上での、利益への執着」と即答。ゲームの品質に関して責任を負うディレクターとは異なり、プロデューサーは利益に責任を負う立場であるためです。

ディレクター出身の東山氏は自身をプランナーやディレクターに近いと自己分析しているそうです。「ただ儲かればいいというプロデューサー」や「おもしろければなんでもいいというディレクター」はよろしくないとしつつ、プロデューサーとしては、顧客満足度向上による売り上げ増加を目指していると説明しました。

次回予告


Appbank.netでは、5月29日(水)にディライトワークスで開催されたゲーム開発者向け技術勉強会「DELiGHTWORKS Developers Conference(DDC) vol.6」の様子も取材しました。

今回の「肉会」に続いて東山朝日氏が登壇した「DDC vol.6」の講演テーマは“お客様の「欲求」を探るワークショップ”。企画立案のターゲット設定において洞察の一助となる手法「エクスペリエンス・マップ」の効果や制作方法などが紹介されました。

レポートは後日公開予定ですので、ぜひご期待ください!


また、「肉会」の次回開催予定時期が2019年7月予定であることも告知されました。こちらについては詳細な日程やテーマが決まり次第Peatix上で告知されるとのことです。

肉料理紹介


今回は5月開催ということで、端午の節句の鯉のぼりにちなんだ魚(魚肉)料理が多数提供されました。今回の料理も、「肉会」でおなじみのケータリングMo:take(モッテイク)が担当しています。

【今回のメニュー】


  • 生ハムとマッシュポテトのカップ仕立て
  • 人参と塩麹きんぴらのライスボール
  • ツナとパプリカのオムレツとパストラミのピンチョス 〜オリーブ添え〜
  • 豚と白セロリのわさびソース
  • 肉ちまき
  • カツオのガーリックバターステーキ
  • マグロの頬肉甘辛しょうが焼き
  • カジキBBQグリル

▼メインメニューのカツオ、マグロ、カジキそれぞれ異なる味付け。3種が同じ場所にまとまっているので食べ比べがはかどりました。


▼人参と塩麹きんぴらのライスボール。「肉会」と銘打たれていますが、毎回ヘルシーな品目も添えられており、バランスがよい食事を楽しめます。


▼肉ちまき、豚と白セロリのわさびソースといった魚肉以外の肉料理も充実。卓上に飾られていた自動車の模型に、端午の節句らしさを感じました。


▼この区画はアーチ状の葉で奥行きが演出されていて、視覚的に楽しかったです。料理の質はもちろん、盛り付けの工夫も「肉会」の楽しみですね。


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