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ヤバいぞ日本! バイク界のテスラ「デイモン」に国内メーカーは太刀打ちできるのか? #CES2022レポート



» CES 2022 in ラスベガス:現地から「テクノロジー見本市」の最新情報をレポート


EV、中でもハイエンドの電動バイクに特化して製品を販売しているカナダを拠点とする企業がDamon Motorcycles(デイモン・モーターサイクルズ)です。同社が限定モデルの「HYPERFIGHTER(ハイパーファイター)」を「CES 2022」に展示していたので、その実物を撮影してきました。



*Category:テクノロジー, バイク Technology, Bike *独自取材

デイモン・モーターサイクルズ「ハイパーファイター」の特徴とスペック

「ハイパーファイター」はデイモン・モーターサークルズが発売する“限定版”の車両で、最高速度は時速273km、航続距離235kmです。


最大の特徴は、バッテリーパックとモーターが一体となったパーツを自社でデザインしている点。「ハイパードライブ」と呼ばれるこの機構は200馬力のパワーを発揮し、3秒で時速約96kmまで加速可能な性能とのこと。


片側だけで車輪と車体をつなぐシングル・リア・スイングアーム機構、そしてカーボンファイバー製のホイールを採用。


オーリンズのサスペンション、ブレンボのブレーキなど、欧米系で実績のあるメーカーのコンポーネントを採用しているところにもこだわりが感じられます。


デイモン・モーターサイクルズのバイクには「Co-Pilot(コパイロット)」と呼ばれる360度警戒&運転補助システムが搭載されており、飛び出しなどに対して減速をするといった安全対策が施されています。


コパイロットは危険を監視することで、常にライダーの周囲に何があるのかを直感的に把握し、危険を察知した際には、ハンドルバーを通して触覚的に知らせてくれたりや、フロントガラスに組み込まれたLEDランプ、また常にオンの状態になっている1,080pの高性能バックカメラを通じて警告します。
参照:モーターサイクルの安全性と技術革新を牽引する「デーモン・モーターズ」が描く未来

ハンドルの高さを変えて、スポーツ走行に適した姿勢と街乗りに適した上体を起こした姿勢を切り替えることも可能です。


ちなみに、Damonという社名は英語で鬼神や悪魔を意味するデーモン(Demon)と意識していることは確かであり、日本語の記事でも「デーモン」という表記しているケースがありますが、DemonではなくDamonであること、そして名前が同じつづりの俳優Matt Damonさんがデイモンと表記されることから、本記事ではDamon=デイモンとしています。

なお、「ハイパーファイター」の限定モデルの価格は35,000ドル(約400万円)となっており、デイモン・モーターサイクルズのウェブサイトで北米向けの予約受付が開始されています。

Damon Motorcycles|公式(英語)

なお、同社は2017年創業と比較的若い企業でありながら、直近で約34億円の資金調達を成功させており、「バイク界のテスラ」として将来性を見込まれているブランドです。

ガソリンエンジンを積んだバイクでは日本メーカーが世界に誇る実績があるだけに、電動バイクでは日本勢が振るわないことが筆者にはどうにも残念に思えてなりません。

ホンダの「PCX エレクトリック」などカッコいいバイクもあるのですが、記事作成時点においてはリース専用となっていたり……その他は業務用の原付バイクの置き換えのような製品だったりと、実用性はあるのかもしれませんが、乗り物やテック好きがワクワクするようなものではなく、世界的なニュースのヘッドラインを飾るような製品もほとんどないといった状況です。

また、こういった話をすると「電動バイクは航続距離が短いからね」とか「バイク好きは“エンジン音”がしないとダメなの」「EVは寒冷地では使えないよ」といった話をされることがあります。それは事実だと思いますが、だからといってそこからすぐに「世界で売れない」という結論を導くのは短絡的でしょう。先にあげた制約や弱点は「個人が買わない理由」としてはまっとうだと思いますが「企業がビジネスとして取り組まない言い訳」にはならない、というのが筆者の考えです。理由は2つあります。1つめは「技術は急速に進歩する」ということ、2つ目は「万能でなくても製品は普及する」ということです。

1つめの「技術は急速に進歩する」という例としては、iPhoneのことを思い出してみてください。筆者はiPhoneが日本で発売された頃のことを鮮明に覚えていますが、当時、私が在籍していた会社のテック系メディアの編集部門ですら「ビデオが撮影できないからダメだね」「ワンセグは付いてないんでしょ?」「アドビのフラッシュが動かないのは厳しいね」と言う声が多く「これは流行らない」という見方が支配的でした。しかし、今となってはそれがいかに的外れな指摘であったかは明白です。iPhone(iOS端末)は、いまや「最も多く動画を撮影する“カメラ”」となり、「最も多くYouTubeを視聴する端末」になっています。そして、ワンセグとアドビのフラッシュは消えてなくなり、テレビはその将来を危ぶまれているのです。このことから得られる教訓は大きいはずです。現時点の完成度だけをみて「伸びしろ」を想定しないことは致命的な判断ミスにつながります。

2つめの「万能でなくても製品は普及する」という例としては、LEDを備えた信号機(LED式信号灯器)が挙げられます。こちらもEVと同じく寒冷地に弱いという弱点があります。旧来の電球は発熱するので、信号機に積もった雪が溶けやすいというメリットがあったのです。そのため、「寒いところじゃLED信号機は使い物にならん」と言われたわけです。もちろん、現在も雪が深い地域における信号機への積雪対策は難しい問題で、決定的な解決策は見つかっていないようです。実際、警察庁のデータによると、令和二年の時点で「北海道におけるLED信号機の普及率は29%」となっています。弱点の影響を強く受ける地域においては使えない、という状況はどの技術や製品にもあることなのです。けれども、同じデータを参照すると、東京におけるLED信号機の普及率は100%となっており、日本全国でも約63.7%(車両用約66.1%、歩行者用約60.7%)と普及が進んでいます。つまり、もし仮に「LED信号機は雪に弱い」という事実を「つくる意味がない」という判断に直結させたとしたら、大きなまちがいだったというわけです。

このような事例から考えるに「EVは発展途上・弱点あり」という事実をすぐに「売れない」「つくる価値がない」と言う結論を結びつけるのは思考が浅すぎると言わざるをえません。

ここまで話しても、人によっては「君ね、ランチェスターの法則における“強者戦略”というのがあってだね、シェア1位の企業というのは巨大な販売網や営業力を武器に後手でも圧倒できるのさ。だから技術が成熟するのを待ってから打って出るのが正解なのだよ」という人がいます。これは伝統的な経営学の理論から見れば正しい考え方です。2021年12月に「2030年世界で30車種のEV投入」を発表したトヨタなどはこの典型のように見えます。

しかし、この戦略が今でも通用するのか不確かな面があります。トヨタと同様に業界の覇者だったマイクロソフトが後発でモバイルOSに参入した際に大敗し、わずかな期間で撤退に追い込まれたことは記憶に新しいところです。もっとも、その後も同社の株価は続伸しているため「モバイルOSの敗退」をもって「企業としての敗退」とすることはまちがいですが、創業者のビル・ゲイツ氏が最大の失敗を「MicrosoftがAndroidの立場になれなかったこと」と述べていることからも、出遅れが手痛かったことは明らかです。テック系など、新規性を好むユーザー多い市場においては未成熟でも製品をローンチして、未来の可能性を語りながらユーザーをファンにしていくという「先手をとる戦略」のほうが勝ちそうだ、というのがテスラなどを見る限りの結論です。

また、ダメ押しで書くのであれば、かつての日本メーカーが得意とした低価格路線はもはや通用しません。それは、いまや中国企業の独壇場です。人件費の面で中国に日本が勝とうとするのは無謀ですし、仮に勝てたとしても最初から薄利が前提の消耗戦ありきの戦略をとるのは賢明とはいえません。比亜迪(BYD)などに日本メーカーが低価格路線で勝負するのは無理です。

そうなると、日本企業に残された強みは「安全性」です。これはまちがいなく重要なことであり、日本メーカーが得意とするところでもあります。本当に良いことなのですが、米国では痛ましい事故が起きているテスラいまだ熱狂的なファンがいて好調な販売を続けていることを見ると「安全なだけ」では勝ち残れないというのが現実と言わざるをえません。また、DEMONはコパイロットと呼ばれる衝突回避システムなどを実用化しているという点では、安全というお家芸すら日本のバイクメーカーは後塵を拝する状況です。

国内バイクメーカーのモノづくりは素晴らしいですし、日本は規制が厳しい国でもあるので、発売が後発となっても日本の国内市場を日本メーカーが失うことはないかもしれません。けれども、これまでのように世界市場が取れるか? といえば雲行きはそうとうに怪しいでしょう。そして、世界市場が取れなければ、売上が下がり、利益が下がり、株価が下がり、最終的にはまじめに一所懸命に働く人たちがどんどんと貧しくなっていくことにつながるのです。言い換えれば、積極的な戦略をとらず「目立つまちがいをしない」ことに拘泥する経営判断が社員や国を貧しくするとしても過言ではありません。これは他でもない経営者の責任です。

安易な欧米礼讃にはなりたくありませんが、電動バイクに関しても日本メーカーのいく末には不安を感じるところです。どうか「高齢化と低賃金化が進む国内市場で、残存者利益を求めて座席争いをする」という暗澹(あんたん)たる未来ではなく、高い技術力とクールな製品で世界にファンを生むような、果敢な挑戦をしていただきたいと願うところです。こんなことを場末のインターネットに書いたところで何も変わらないというのは百も承知ですが……せめて「日本の産業に輝きを取り戻してほしい」と願う人たちに届けば幸いです……。

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