スティーブ・ジョブズが亡くなってから11年が経ちました。そして、彼のあとを継いだ現Apple CEOのティム・クックは、Appleの純利益を250億ドル/年(約3.7兆円)から1,000億ドル/年(約14兆円)にまで成長させています。
財務的観点からみれば、クックCEOが驚異的な活躍を見せていることに異論はないでしょう。Appleの株価は10倍以上になり、世界初の上場1兆円企業になりました。そして、最終的にAppleを世界初の3兆円企業にまで導いたのです。
この凄まじい業績を考えれば、クックCEOに対して退陣を求める株主はほとんどいないはずです。しかし、61歳になるクック自身は、今後2、3年のうちに退任する用意があるようです。彼が退任した場合、次のAppleのCEOは誰になるのでしょうか。これについて、海外YouTubeチャンネル「Logically Answered」が8人の候補を解説しています。
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次のAppleのCEOは誰になるのか?
ティム・クックはまだ引退の正確な時期を明らかにしていませんが、時期についていくつかのヒントを与えています。
2021年4月、クックは「10年後にはおそらくAppleの経営者ではなくなっています。そして、あと1つだけ製品カテゴリーの立ち上げを監督することを考えています」と発言しています。
一部では、これがApple Carではないかと推測されています。あるいは、AR/VRヘッドセットという可能性もあります。
このヘッドセットに関しては、数多くの噂が飛び交っています。Gurman氏やKuo氏などのトップアナリストは、このヘッドセットが早ければ今年末に発売される可能性を示唆しています。それが実現しないとしても、今後1〜2年以内にヘッドセットが登場することは間違いなさそうです。
クックはおそらく新製品が発売し数年間はそばにいて、すべてが順調に進んでいることを確認したいはずです。そうすると、彼の引退予定日は2025年から2028年の間ということになります。
クックの次の株式報酬は2025年に支払われるため、その直後に引退するのは非常に理にかなっています。しかし、ここで世界最大の企業の次のCEOは誰なのか、という問題が出てきます。
◇ 【候補①】ジェフ・ウィリアムズ
まずは最も可能性の高い人選として、Appleで2番目に重要な人物が候補に挙がります。ウィリアムズは現在、AppleのCOO(最高執行責任者)を務めていますが、他にもかなり幅広い経歴の持ち主です。
彼は、ノースカロライナ州立大学で機械工学の学位を取得したエンジニアです。その後、デューク大学でMBAを取得しています。
卒業後、最初に勤めた会社のひとつがIBMです。彼は1985年に入社し、13年間エンジニアリングとオペレーションに関連するさまざまな職務を経験してきました。
そして、1998年にAppleに入社し、ワールドワイドプロキュアメントの責任者に就任しました。そこから、2004年にオペレーション担当副社長、2010年にワールドワイドオペレーションの責任者に昇進しています。そして2015年末、現在のCOOに昇格しました。
しかし、彼が面倒を見るのはオペレーションだけではありません。2019年にジョニー・アイブがAppleを去った後、ウィリアムズはAppleのデザイン部門も監督しています。
ウィリアムズが最有力候補である理由はたくさんあります。まずは、彼がエンジニアであるということです。最近の歴史では、ビジネスCEOから技術CEOへの流れが見られます。
クック自身もエンジニアですし、Microsoft、Google、Nvidia、AMDなどのCEOにも同じことが言えます。つまり、ウィリアムズは、ビジネスの経験が豊富でありながら、技術的な知識も豊富という、現代のCEOの典型的な型に当てはまるということです。
そしてクック自身も、COOからCEOになったという経歴もあります。また、S&P500のCEOの76%はCOOから昇格しています。
しかし、この流れに変化が見え始めています。2020年現在、COOから昇進しているCEOは38%に過ぎません。ほぼ同じ割合で、部門CEOや実質的な副社長から昇進しているパターンもあります。
とはいえ、もしクックが明日突然退社するとしたら、ジェフ・ウィリアムズが後任になるのはほぼ間違いないでしょう。
しかし、クックが引退するのは、まだ何年か先の話です。これだけでもウィリアムズの可能性はかなり低くなります。なぜなら、ウィリアムズは、クックより2歳若い59歳だからです。
仮にクックが2028年に退任するとしたら、ウィリアムズはその時すでに65歳になっています。そして、Appleが10年、15年以上リードできるリーダーを欲しているとしたら、ウィリアムズは最適な選択とは思えません。しかし、この一点を除けば、ウィリアムズにはすべてが揃っているのです。
◇ 【候補②】エディ・キュー
次の候補は、サービス部門のシニアバイスプレジデントであるエディ・キューです。Appleに忠実な人物といえば、キューで間違いありません。
彼は、デューク大学でコンピュータサイエンスと経済学の学士号を取得した後、1989年に25歳でAppleに入社し、それ以来ずっとApple一筋です。
キューは、ユーザーがよく手にするモノを開発したわけではありません。実際、彼はiPhoneやAir Pods、Face IDなどをデザインしていません。
しかし、彼は最初からAppleの体験に欠かせない存在であり、次々と大成功を収めています。
彼は1998年に、Appleのウェブサイトを開発しました。その後、2003年にはiTunesの開発を、2008年にはApp Storeの開発を指揮しました。
その後、Appleマップ、iCloud、iMessage、Siriなど、Appleのあらゆるサービスに携わってきています。
基本的に、Appleのサービスがあれば、彼はその中で何らかの役割を担っています。つまり、キューはAppleの便利さを作り上げているということです。
そして、AppleがAppleのエコシステムとユーザーの離脱を防ぐことに非常に注力していることを考えると、キューはCEOとして完璧な選択と言えるかもしれません。
Appleが販売できるiPhoneの台数は限られています。そして、もしまだiPhoneのピークに達していないとしても、クックが引退する頃には間違いなくそこに到達しているでしょう。
要するに、Appleはハードウェアの販売だけで利益と収益を増やし続けることはできないということです。
Appleが成長を続けるためには、サービスを通じて収益と利益を上げる必要があります。それこそが、iPhoneの販売がピークに達して以来、彼らがやろうとしていることなのです。
しかし、それにもかかわらず、Appleはサービス企業とは対照的に、依然としてハードウェア企業です。ただ、キューであれば状況を変え、Appleを10兆ドル(約1,000兆円)の大台に乗せることができるかもしれません。
ビジネス戦略の観点からも、キューは断然ベストな選択です。Appleの次のステージは、サービス企業への移行であり、そのリーダーとしてキュー以上の人物はいないでしょう。
しかし、ウィリアムズと同じように、キューもいくつかの点で劣っています。まず、キューにはサービス以外の分野の経験がほとんどありません。オペレーション、ファイナンス、ブランディングなど、会社経営に関わる重要な経験を持っていないのです。
また、年齢も57歳とクックとさほど変わりません。そして、最大の欠点は、Appleのコミュニティが全体としてキューの最大のファンではないことです。以前のキューは素晴らしいことをリードしていましたが、彼の現在の仕事はそれほど上手くいっていないようです。
しかし、そのようなことを抜きにすれば、キューはAppleをサービスの巨大企業にするという点で、おそらく最良の選択になるはずです。
◇ 【候補③】グレッグ・ジョスウィアック
次の候補は、同じくAppleの生え抜きであるグレッグ・ジョスウィアックです。ジョスウィアックは現在、ワールドワイドマーケティング担当の上級副社長を務めています。
ジョスウィアックは、学歴とはまったく関係のない仕事をしています。彼は、根っからのエンジニアですが、実際にはエンジニアになったことがありません。
彼は1986年にミシガン大学のコンピュータ工学科を卒業し、直接Appleからスカウトされています。当初はマッキントッシュの開発に携わっていましたが、すぐにマーケティングに転向し、以来30年以上マーケティングを担当しています。
Appleで最初に手がけたマーケティングは、PowerBookに関するものでした。その後、iPodのマーケティングを担当し、最終的にはiPhoneのマーケティングを担当しています。
そして2年前、フィル・シラーが退任した後、ジョスウィアックは上級副社長の役割を担うことになったのです。
ジョスウィアックの評価は、難しいところがあります。彼は技術的なバックグラウンドを持ち、製品のマーケティング方法を知っており、製品指向の会社としてAppleをリードしていくでしょう。
しかし、これは歴史的に成功したアプローチであり、これが今後の方法であるかどうかは明らかではありません。
Appleの将来の成長の大部分はサービスの中にあります。ただ、ジョスウィアックは、それを経験したことがありません。
ジョスウィアックは現在の役割の方が合っているように思えます。これは、ジョスウィアックが悪いCEOになると言っているのではありません。
彼はおそらくAppleのブランディングとマーケティングを次のレベルに引き上げるはずです。それはAR/VRヘッドセットや、もしかするとApple Carのような新しい製品の立ち上げに役立つかもしれません。
しかし、ジョスウィアックがどのようにAppleの収益を多様化し、次のレベルに持っていくのかは不透明です。
そして、これが株主の最優先事項であることを考えると、ジョスウィアックはおそらく最有力候補ではないでしょう。ただ、Appleは製品志向の会社であり、ジョスウィアックが経営陣の中で最も経験のあるApple社員であることを考えると、彼を見捨てることはできないはずです。
◇ 【候補④】ルカ・マエストリ
次の候補は、現在AppleのCFOであるルカ・マエストリです。彼は、経済学の学士号と経営の修士号を持ち、金融の中でキャリアを費やしてきました。彼の経験には、GM、Nokia、Xerox、そしてもちろんAppleが含まれます。
もしAppleが資金難や債務危機であれば、マエストリは良い選択だったのかもしれません。
◇ 【候補⑤】ジョン・ターナス
次の候補は、ハードウェアエンジニアリングの上級副社長であるジョン・ターナスです。彼は、ペンシルバニア大学で機械工学の学士号を取得し、Appleに入社して20年が経ちます。
現在は、iPhone、iPad、Mac、AirPodsなどのエンジニアリングを統括しています。ターナスはどちらかというとプロダクトの人間ですが、特に興味深いのはその年齢です。
ターナスはAppleのエグゼクティブチームの中で最も若い45歳です。そのため、15年以上CEOを務めることも容易なはずです。しかし、年齢を除けば、ターナスが特に突出した点はありません。
◇ 【候補⑥】ディアドラ・オブライエン
オブライエンは、世界で最もパワフルな女性の1人に数えられています。彼女の立場を考えれば、それも当然です。オブライエンは小売・人材部門の上級副社長として、Appleの従業員の大半を管理しています。
彼女はオペレーションマネジメントの学位とMBAを取得しています。そして、彼女は人生のすべてをAppleで過ごしてきました。
彼女がこのポジションにふさわしいことは間違いありませんが、他にも多くの有能な人材がいるため、彼女が選ばれる理由はないように思われます。
◇ 【候補⑦】フィル・シラー
シラーは、ジョブズ時代からずっとAppleの中心の一部であり、2011年当時もおそらくCEOの最有力候補だったはずです。
しかし、現在、彼は実質的に引退しているため、それほど大きな候補者ではありません。
また、数年前に副社長を退任し、Appleのフェローという名誉職についています。62歳という年齢で、Appleが引退した人物を選ぶとは考えにくいでしょう。
◇ 【候補⑧】クレイグ・フェデリギ
フェデリギは「ヘアフォース・ワン」と呼ばれ、Appleで最もカリスマ性のある、生き生きとしたプレゼンターです。
そして、彼の魅力はAppleファンの多くを虜にしています。まるで、ジョブズのようにです。
フェデリギは、バークレー校でコンピューターサイエンスと電気工学の学士号を取得しています。また、同じくバークレー校でコンピューターサイエンスの修士号を取得しています。
ジョブズとは、NeXTで「Enterprise Objects Framework」を率いていた時に知り合いました。AppleがNeXTを買収したとき、彼はAppleの社員となりましたが、そこに長くは留まりませんでした。
そして1999年、彼はアリバという会社に転職し、最終的にCTOに就任しています。しかし、2009年にAppleに戻り、ソフトウェアエンジニアリングのシニアバイスプレジデントに就任します。
技術的なノウハウということであれば、Appleの経営陣の中でフェデリギ以上に経験を持っている人はいないでしょう。
また、フェデリギはAppleの幹部としては比較的若いです。彼はまだ53歳のため、10年は簡単にCEOを務められるはずです。
フェデリギの不利なことは、ソフトウェア以外の経験があまりないことです。しかし、これは多くの技術系CEOに言えることのため、さほど制限要因にはなりません。
ただ、フェデリギは過去にCEOになることは考えていないと発言しています。正直なところ、それは文字通りの意味ではありません。CEOになりたいと言ったところで、権力に飢えて傲慢に見えるだけです。皮肉なことに、CEOになりたくないと言うことが、実はCEOになるための最善の策なのです。
Appleのコミュニティの中には、フェデリギに強く反対する人たちがいます。彼らは、エンターテイナーとみなされる人がCEOになるべきではないと考えています。しかし、どんなCEOも一部の人間には嫌われるもので、それはフェデリギも同じです。
最終的に、候補者を可能性でランク付けするとしたら、もちろんジェフ・ウィリアムズ、そしてグレッグ・ジョスウィアックという選択をしなければならないでしょう。
また、Appleが戦略的なひねりを入れて、サービスに焦点を当てたいと思った場合、エディ・キューを選ぶかもしれません。
彼らが現在のトップ・チョイスであることは間違いありませんが、彼らの年齢を考えると、クックが引退するまでに、Appleがもっと若い人を採用する可能性は十分にあります。その場合、フェデリギの年齢、カリスマ性、ファン層は強い可能性を秘めています。
次期CEOが誰であろうと、Appleに新鮮な風を吹き込んでくれることを期待しましょう。
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- Source:AppBank
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