小説向け翻訳環境「Divergence-Z」を開発! 原作から登場人物の「声の設計図」を自動生成、実証パートナーを募集



Divergence-Zの人物表画面。登場人物ごとの重要度と参照語の一覧

株式会社Miosync(Miosync)は10月4日、小説・脚本などの創作物を対象とした翻訳環境「Divergence-Z」を開発したと発表しました。あわせて、実証に協力するパートナーとして、小説投稿プラットフォーム、作家、出版関係者の募集を開始しています。

同ツールは、原作から登場人物ごとの話し方とその崩れ方を読み取り、翻訳に反映する仕組みです。

開発の背景

既存の翻訳APIやサービスには、用語集、スタイルルール、カスタム指示、翻訳メモリといった訳文を制御する仕組みがあります。ただし、その中身を用意するのは人間です。

どの用語をどう訳すか、どのキャラクターがどんな口調で話すかといった内容は、翻訳者やディレクターが事前に作成する必要がありました。翻訳メモリも、人間が承認した訳文が蓄積されるまで機能しません。

商業出版やゲームの大規模ローカライズでは、この前提が成立します。一方、翻訳者に依頼する予算のない個人作家や、カタログ全体を対象にしたい場合には障壁になると、同社は説明しています。

Divergence-Zの特徴

原作から「声の設計図」を自動生成

Divergence-Zは、原作を読み込んで登場人物一人ひとりの「声の設計図」を自動で作成します。一人称や語尾といった話し方の特徴にくわえ、感情が高ぶったときに言葉がどう崩れるか、出来事をどう受け止めて合理化するかまでを、原作の台詞を根拠に記述するとのことです。

その話し方を別の言語でどう再現するかの方針も、人物ごとに持つそうです。翻訳ではこの設計図を章ごとに参照するため、人間が用意していた口調の指示を原作から得られるとしています。

キャラクターを「設定」ではなく「経験」から組み立てる

従来のキャラクター設定表には時間の概念がなく、「臆病」「妻に依存している」と書けば、第1章でも第10章でも同じ人物になります。翻訳で必要なのは、その台詞を発した時点での人物だと同社は説明しています。

例として挙げられているのが、李箱『翼』の語り手です。妻の欺瞞に気づく前と後とでは、同じ「間違いない」という断定でも意味が反転します。前者は自分を納得させるための断定、後者は疑いを押し殺すための断定で、訳語の選択もそこで変わるとのことです。

Divergence-Zは、登場人物の経験を「この章より前/この章/この先」に分けて保持し、翻訳時に参照します。人物の思考の型(仮説を立て、断定し、自ら反証を作り、眠って忘れるといった反復される行動パターン)も、原作で繰り返される記述から抽出するそうです。

時間軸を持った設定資料は人手でも理論上は作れるものの、章ごとの作り直しは商業規模でも現実的ではなかったとのことです。

三層の資料構成

本ツールは、翻訳者が頭の中で行っている作業を、人物表、ペルソナ、エピソードの三つの層に分けて構築します。

  • 人物表:誰が誰か(呼ばれ方・関係)を扱い、指している人物を特定する
  • ペルソナ:経験から形づくられた見方と声を扱い、どう話すか、どう受け取るかを決める
  • エピソード:その時点までに何を経験したかを扱い、今の台詞の重さを決める

検証に用いた『翼』は、妻の固有名がほぼ登場しない作品です。「妻」「彼女」「ヨンシミ」が同一人物を指していると判定できなければ、声の設計図も経験の記録も別の人物に結びついてしまうため、人物表がその土台になるとしています。

決定を記録し、次の章へ引き継ぐ

翻訳の過程で下した判断は「訳語表」に記録され、以降の章に引き継がれます。記録されるのは対応表だけでなく、なぜその訳語を選んだのかという理由も読める形で残ります。

Divergence-Zの訳語表画面。Koreaプロジェクトの章別一覧と用語の対訳表

作家や編集者はこの内容を確認し、手で書き換えることもできます。書き換えた内容は、次の章以降の翻訳に反映されます。

ローカライズ機能

訳し上がった訳文はそのまま保持したうえで、市場に応じた調整版を別に生成できます。プリセットとして、「読者配慮(訳注のみ)」「市場適応(等価置換)」「PG15(性・暴力表現の緩和)」「ハラール配慮」などが用意されています。

Divergence-Zのローカライズ機能の画面。調整項目のチェックと変更履歴を表示

調整は修飾部に限定され、述語・出来事・人物の関係性は変更しません。変更箇所は全件が台帳に記録され、原文との対照つきで確認や取り消しができます。

このほか、本文に手を入れず、市場との摩擦が生じうる箇所のみを報告する「診断」モードも選択できます。

検証結果

パブリックドメインの韓国語近代文学作品を素材に、日本語への翻訳が検証されました。対象は李箱『翼』(1936年発表、全10章相当・約2万3千字)です。

Divergence-Zの画面。韓国語原文と日本語訳を章ごとに並べて表示

文体の一貫性では、既存の機械翻訳の場合、第1章の12段落のうち第2段落から敬体が常体に転じ、以降9段落が混在したとのことです。Divergence-Zでは全10章・約200文で崩れがなかったとしています。

同一語の訳語については、繰り返し語が別語に置き換わり反復が成立しない箇所があったのに対し、Divergence-Zでは主要語で統一され、52回出現する語にもブレがなかったそうです。文脈依存の訳し分けでは、性別を持たない韓国語の三人称を、章ごとに正しく訳し分けたとしています。

既存の機械翻訳は文単位での自然さに最適化されており、文書全体を通した一貫性を保持する仕組みを持たないと、同社は説明しています。なお、検証結果は同社による測定値です。

設計方針と想定する使い方

利用者自身のAPIキーで動作するBYOK(Bring Your Own Key)方式で、原稿や翻訳データは利用者の端末内に保存され、外部サーバーには送信されません。プラットフォームが場を提供し、作家が自身のキーで利用する形を想定しているため、導入側のコスト負担はないとのことです。

デスクトップアプリとコマンドラインの両方が提供され、MITライセンスで公開されています。

想定される使い方は、個人作家による自作の他言語での公開、投稿プラットフォームによる海外作品の自国語での受け入れ、商業案件での下訳としての利用です。翻訳者に依頼できる作品を置き換えるものではなく、依頼できない作品のために設計したと、同社は述べています。

実証パートナーを募集

募集対象は、小説・漫画投稿プラットフォームの運営者、自作の多言語展開を検討している作家、創作物の翻訳に携わる方です。実証にあたっては、導入支援やプリセットの調整などがMiosync側で対応されます。

問い合わせ先は info@miosync.email です。




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