イーロン・マスク「火星移住のカギはこれ」100年前の技術がすご過ぎる




イーロン・マスクの宇宙企業であるSpaceXは将来への取り組みとして、液体燃料ロケットエンジン「ラプター」を開発しています。

このラプターエンジンの特徴は、燃料に液体水素ではなくメタンを採用するという点です。マスクがなぜ火星を目指すロケットエンジンの燃料に「メタン」を選んだのかについて、海外YouTubeチャンネル「Real Engineering」が解説しています。




*Category:テクノロジー Technology|*Source:Real Engineering ,サバディエ反応(Wikipedia)

火星目指すイーロン・マスクがラプターエンジンの燃料に「メタン」を選んだ理由


スターシップのラプターエンジンは、燃料にケロシン(灯油)や液体水素ではなく、メタンを採用しています。この燃料は、過去100年にわたるロケット燃料の研究において頻繁に検討されてきましたが、実際に主流にはなりませんでした。

液体水素はメタンやケロシンに比べ、推進力で勝るものの、貯蔵が難しく、場所を取りすぎるというデメリットがあります。対してケロシンは水素やメタンに比べ、貯蔵や省スペース性では優れているものの、推進力で劣ります。メタンはちょうどこの中間で、中途半端な燃料なのです。


ところが、火星を目指すエンジンの燃料として考えた場合、メタンには多くのメリットがあります。

まずメタンはケロシンに比べ、燃焼時の煤の発生が少なく、エンジンへの負担が少ないという特徴があります。また、沸点が酸化剤となる液体酸素よりも高いため、酸素を液化して使うためのインフラを、液体メタンにも使うことができます。これは、火星の限られたインフラで作業する際に重要なことです。

しかし、メタンがSpaceXにとって魅力的な本当の理由は、火星の二酸化炭素を多く含む大気から合成できるという点です。マスクは以前、大気から二酸化炭素を取り除き、それをロケット燃料に変えるという計画を明らかにしています。同氏はこれについて「火星でも重要な役割を果たす」と指摘していました。

これは、ポール・サバティエという化学者が100年以上前に発見した、二酸化炭素を触媒(通常はニッケル)に通し、水素ガスと一緒に高温高圧でメタンに変換するという技術です。これは「サバディエ反応」とよばれ、火星への有人宇宙飛行(マーズ・ダイレクト)のコスト削減の鍵を握る技術として注目されています。


この反応では、1モルの二酸化炭素を4モルの水素と反応させることで、1モルのメタンと2モルの水を作り出すことができます。これを水の電気分解プロセスと組み合わせると、メタン1モルに対して酸素2モルが生成されます。

問題は反応に必要な二酸化炭素や水素をどのようにして手に入れるかといった点ですが、幸いなことに火星には豊富な二酸化炭素があります。火星の大気の95%は二酸化炭素で、残りの5%は窒素、アルゴン、微量の酸素などの気体で構成されています。


純粋な二酸化炭素を取り出す方法としては、火星の大気中に存在する気体の中で最も凝固点が高い二酸化炭素を凍結させることが、現在のところ最も現実的な方法です。

しかし、サバディエ反応に必要な水素を手に入れるのは、さらに困難です。1つの選択肢は、地球から運ぶことですが、必要な量が多く、長期保存が難しいことを考えると、長期的にはあまり良い選択肢とはいえません。

火星にある資源から水素を取り出す場合、その原料は水になります。水は火星の土壌にも含まれていますが、最も重要なのは、火星の極域に氷の形で存在することです。この氷を効率的に採掘できれば、電流を使って酸素と水素に変換し、その水素と二酸化炭素を結合させてメタンを作ることが可能になります。


ここで重要になってくるのが比率です。酸素とメタンのモル比が2:1であることから、酸素とメタンの質量比は4:1となります。そして、スペースX社のラプターエンジンの推進剤混合比は3.4:1なので、このプロセスでは酸素が過剰に生産されるのです。

つまり、ロケットに必要な燃料を作り出しながら、余った酸素を火星に建設された都市の生命維持装置に回すことができます。人類の「火星移住」を目指すイーロン・マスクにとって、メタンはまさに一石二鳥な燃料なのです。

しかし、火星から大量の水を抽出することは容易ではありません。さらに、これを大規模に行う技術もまだ存在しませんし、そもそも人類は火星にたどり着いていません。まだまだ「机上の空論」めいた発想ではありますが、イーロン・マスクがラプターエンジンを開発する背景には、こういった事情が隠されているのです。




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