20世紀半ばの宇宙開発競争でよく話題に上がるのが、アメリカの「スペースペン」の開発です。普通のボールペンは無重力の宇宙空間では使えないため、宇宙で使えるボールペンとして開発されたのがこのスペースペンです。ボールペンが使えないのであれば、鉛筆を使えばいいのではと考えてしまいそうですが、実は宇宙で鉛筆を使うには少し問題があるのです。
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宇宙で使えるボールペンの開発
「宇宙ではボールペンが使えないので、NASAは何百万ドルもかけて、微小重力環境でも使えるボールペンを開発した。一方、ロシアの宇宙飛行士は、鉛筆を使うことでこの問題を回避した」という話は有名です。しかし実は、この話はほとんど事実無根なのです。
当初、NASAの宇宙飛行士もロシアの宇宙飛行士も、宇宙では鉛筆を使っていました。NASAは、宇宙で使うボールペンの研究をしていましたが、コストが高騰することが明らかになったため、早期に中止しています。そこで民間企業のフィッシャー・ペン社は宇宙でも使えるボールペン「フィッシャースペースペン」を独自に開発しました。そして、1960年代後半に世に出たフィッシャースペースペンは、NASAの宇宙飛行士もロシアの宇宙飛行士も、微小重力下での筆記には全てこのペンを使うことになりました。
なぜ宇宙では鉛筆が使えないのか
それは、宇宙には “浮遊させたくないもの”があるからです。鉛筆のカスもその一つです。芯が折れてしまう危険性もありますが、燃えやすい木くずや、鉛筆を書くときに出る微細な導電性黒鉛も宇宙船には漂わせたくありません。デリケートな機械に詰まるような微細な粒子は宇宙では危険であり、鉛筆から剥がれる粒子は大きな懸念材料でした。特に火災は宇宙船の安全上重大な問題であり、1967年にアポロ1号のミッションで火災により3名全員が死亡したことを受けて、NASAも軽んじてはいないのです。
また、当時のボールペンも危険なものでした。1945年に初めて商業的に成功したボールペンが発売されましたが、フィッシャー・ペン社の創業者ポール・C・フィッシャーによると、そのペンは「どこにでも漏れる」ものでした。
アポロの宇宙飛行士たちは、デュロ・ペン社のフェルトペンを使っていました。アポロ11号のミッション中にこのペンが危機を救ったことで有名です。重要なスイッチが壊れてしまい、バズ・オルドリンはペンの軸をその穴に差し込み、カプセルを月から脱出させることができた、というものです。(フィッシャー・ペン社はフィッシャースペースペンだと主張していますが、オルドリンはフェルトペンだと明言しています)
しかし、ポール・C・フィッシャーがフリードリッヒ・シェヒター、エルヴィン・ラートとともにスペースペンを完成させ、1965年に最初の特許を申請してからは、ボールペンも使われるようになりました。実はフィッシャーは、インク漏れを直す方法を、夢の中で思いついたというのです。
NASAのスペースペンの発明者であるポールフィッシャーへのインタビュー
父は2年ほど前に亡くなっていたのですが、その夢の中で私のところに来て、『ポール、インクに微量のロジン(rosin)を加えたら、にじみが止まるよ』と言ったんです。そのことを化学者に話したら、化学者は笑っていたよ!そんなの効かないって。
そして3ヵ月後、その化学者は私のところに戻って来て、私が正しかったと言ったのです!彼は、ロジンをうまく使う方法を探していたのですが、樹脂(resin)のことだと気付いたと言いました!2%の樹脂を使うことで、上手くいったのです。140ポンドの空気圧をかけても漏れなかったんです。
— 出典:audiologyonline
このペンは、加圧式のインクカートリッジを使用しており、通常のボールペンでは困難な、温度差の激しい場所、逆さまの場所、油のついた場所など、様々な条件下で使用することができます。フィッシャーはNASAにこのペンを提案し、NASAは厳密なテストの後、将来のアポロミッション用に購入することを決定しました。フィッシャースペースペンは、1968年のアポロ7号でデビューしたのです。
フィッシャースペースペンは現在も使われていますが、現在では国際宇宙ステーションに滞在する宇宙飛行士たちは、鉛筆も使えるそうです。ちなみにこれらは木製のものではなく、機械式のものとのこと。技術の進歩により、国際宇宙ステーションに搭載されているろ過システムが、潜在的に危険な破片をかなり効率よくかき出してくれるようになったのです。
NASAのクレイトン・アンダーソン宇宙飛行士は、「鉛筆は通常、クルーが船内の手順(燃焼時間、エンジン構成など)を実行するために必要な数値を書き込むのに使用します」と説明しています。状況が変化したときに、手順書の内容を消すことができるというのは、非常に優れた能力なのです。
- Original:https://www.appbank.net/2023/06/17/science-innovation/2491211.php
- Source:AppBank
- Author:記事班02テクノロジー
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