インド料理、中華料理、タイ料理、ベトナム料理など様々なエスニック料理を作る上で重要なスパイス。今では誰でも簡単に入手できますが、スパイスの取引は約2000年前にまで遡るということが判明しました。さらにスパイスの跡を辿ることで、最古のカレーが発見されたのです。
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デンプン粒の解析からカレーを発見
Science Advances誌に掲載された論文によると、ベトナム南部のオケオ遺跡群で8種類のスパイスが発見されました。もともとは異なる産地のもので、カレーの材料として使われていたようです。 驚いたことに、中には海路で数千キロも運ばれてきたスパイスもありました。さらに、これはインド以外で発見された最古のカレーの証拠でもあったのです。
研究当初は、古代フナン王国の人々がスパイスを粉にするために使っていたと思われる「ペサニ」と呼ばれる石臼や、古代の香辛料貿易について調査が行われていました。研究には残存デンプン分析と呼ばれる技術が用いられ、オケオ遺跡から発掘された様々な粉砕・搗き道具から回収された微小な痕跡が分析されました。デンプン粒は植物の細胞内に見られる小さな構造で、長期間保存することができます。そこから過去の植物の利用、食生活、栽培方法、さらには環境条件についてまで、貴重な洞察を得ることができたのです。
分析された40個の道具のうち、12個はターメリック、ジンジャー、フィンガールート、サンドジンジャー、ガランガル、クローブ、ナツメグ、シナモンなど、様々なスパイスを製造していたものでした。つまり、この遺跡の住人は、香辛料植物の根茎、種子、茎を粉にして風味を出すなど、食品加工に道具を使っていたことになります。この遺跡と道具の年代を調べるため、木炭と木材のサンプルから29個の年代を割り出しました。その結果、西暦207年から326年のものが含まれていたことが判明しました。
また同じ遺跡で調査していた別の研究チームは、熱ルミネッセンス年代測定法と呼ばれる技術を使って、遺跡の建築に使われていたレンガを調査しました。その結果、オケオ遺跡は1世紀から8世紀の間に居住されていたことが判明しました。
世界最古のカレーから見える「スパイスへの執念」
世界的なスパイス貿易がアジア、アフリカ、ヨーロッパの文化と経済を結びつけてきたことはよく知られています。しかし、この研究が始まるまでは、古代のカレーに関する証拠は限られていました。そのわずかな証拠も、主にインドからのものでした。そのため、初期のスパイス貿易に関する情報のほとんどは、インド、中国、ローマの古文書から得ていました。この研究は、スパイスが約2000年前の世界的な交易ネットワークで交換された貴重な商品であったことを、非常に具体的な形で確認した初めてのものになります。
オケオ遺跡で発見されたスパイスは、すべてこの地域で自然に入手できたものではなく、ある時点で誰かがインド洋や太平洋を経由して運んだものでしょう。このことは、カレーがインド以外にも歴史を持ち、カレーのスパイスが広く求められていたことを証明しています。カレーを一から作ったことがある人ならわかると思いますが、簡単なことではありません。相当な時間と労力がかかり、様々な種類のスパイスやそれらを挽くための道具も必要です。約2000年前、インド国外に住んでいた人々が、カレーの風味を味わいたいという強い願望を持っていたことがうかがえます。
そして興味深いことに、発見された古代のカレーのレシピは、現在ベトナムで使われているカレーのレシピから大きく逸脱していないとのこと。ターメリック、クローブ、シナモン、ココナッツミルクといった主要な成分はレシピの中で一貫しており、2000年前の味は意外にも現在まで引き継がれていたのです。
2017年から2020年にかけて行われた発掘調査では、保存状態の良い種子も相当数採取されました。研究者たちは、将来的にはそれらも分析したいと言います。そうすれば、さらに多くのスパイスが特定されたり、独自の植物種が発見されるなど地域の歴史に対する理解がより深まるでしょう。また、遺跡の年代測定が進めば、スパイスや植物が世界的に取引されるようになった時期や方法も解明できるかもしれません。
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