遺伝のメカニズムから発見された「数学的パターン」がスゴい



自然界には、数学的な美しいパターンが無限に広がっています。新しい研究では、進化遺伝学にも「純粋数学」の要素が組み込まれていることが明らかになりました。この深い繋がりについて、科学メディア「science alert」が解説しています。

*Category:サイエンス Science *Source:sciencealert ,UNIVERSITY OF OXFORD ,THE ROYAL SOCIETY

数学と進化遺伝学の不思議な結びつき


多様なメンバーからなる研究者チームが、数学と自然の間の新たな関連性を発見しました。純粋な数学の一形態である「数論」と、分子レベルの遺伝学における進化を制御するメカニズムとの結びつきです。数論は私たちにとって身近な、整数に関する数学の一分野です。有名なフィボナッチ数列はその一例で、数列の各数は前の2つの数の和です。フィボナッチ数列のパターンは、松ぼっくり、パイナップル、ヒマワリの種など、自然界のいたるところで見ることができます。オックスフォード大学の数学者であり、この新しい研究の上級著者であるアード・ルイス氏は次のように述べています。

The beauty of number theory lies not only in the abstract relationships it uncovers between integers, but also in the deep mathematical structures it illuminates in our natural world.


— 引用:UNIVERSITY OF OXFORD

「数論の美しさは、整数間の抽象的な関係だけでなく、自然界に見られる深い数学的構造にもあります。(UNIVERSITY OF OXFORD)」

ルイス氏が興味を持ったのは、「突然変異」です。突然変異とは、時間の経過とともに生物のゲノムに入り込み、進化を促す遺伝的エラーのことです。突然変異の中には、遺伝配列の1文字の変化で病気を引き起こすものや、予想外の利点をもたらすものもあれば、生物の外見、特性、行動(表現型)には影響を及ぼさないものもあります。後者は中立的突然変異と呼ばれ、観察可能な影響はありませんが、進化が働いていることを示す指標となります。突然変異は時間の経過とともに一定の割合で蓄積され、共通の祖先から徐々に分岐していく生物間の遺伝的関係を示しています。

生物は、予測できない突然変異が起こる一方で、その特徴的な表現型を維持するために、ある程度の突然変異に耐える必要があるのです。このいわゆる突然変異の頑健性は遺伝的多様性を生み出しますが、それは種によって異なり細胞内のタンパク質でも観察することができます。研究対象となったタンパク質は、コード配列におけるランダムエラーの約3分の2を許容できることを示し、突然変異の66%は中立で最終的な形には影響を与えないことを意味します。ルイス氏は次のように話します。

We have known for some time that many biological systems exhibit remarkably high phenotype robustness,without which evolution would not be possible.But we didn’t know what the absolute maximal robustness possible would be, or if there even was a maximum.


— 引用:UNIVERSITY OF OXFORD

「我々は以前から、多くの生物学的システムが極めて高い表現型の頑健性を示すことを知っていました。それなしには進化はあり得ません。しかし、可能な頑健性の絶対的な最大値がどの程度なのか、あるいは最大値があるのかどうかさえわかっていませんでした。(UNIVERSITY OF OXFORD)」


ルイス氏と研究チームは、遺伝子型として知られるユニークな遺伝子配列が、特定の表現型や形質にどのようにマッピングされるかを調べるため、タンパク質のフォールディングと低分子RNAの構造に注目しました。タンパク質の場合、短いDNA配列がタンパク質の構成要素を示し、それらを組み合わせることでその形状をエンコードします。タンパク質より小さいのはRNAの二次構造で、タンパク質を構築するのに役立つ遺伝コードの自由に浮遊する鎖です。そして自然界が突然変異の頑健性の上限にどこまで近づけるかを考え、その可能性を計算するために数値シミュレーションを行いました。

その結果、自然界に存在するタンパク質やRNAの構造において、突然変異の頑健性が実際に最大になることが示されました。しかも、その最大頑健性は、ブランマンジェ曲線と呼ばれる自己反復フラクタルパターンに従っており、数論の基本概念である数字和に比例していたのです。ハーバード大学医学部のヴァイバフ・モハンティ氏は、「配列からRNAの二次構造へのマッピングにおいて、自然界が最大頑健性を正確に達成していることを示す明確な証拠が見つかりました。まるで生物学がフラクタル数和関数を知っているかのようです。」と述べています。数学は、ミクロなレベルでも物理的世界に構造を与える、自然界に不可欠な要素であるようです。




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